1万時間の法則は誤解?|20時間で習得できるらしいので試してみた
こんにちは、暮らしを良くする研究家のこんぎつねです。
あなたは「1万時間の法則」を知っているでしょうか。
この法則の説明として
「何かを習得するには1万時間の修練が必要ということだ」
とよく言われています。
しかし、これは間違いです。
私が勝手に言っているのではありません。
「1万時間の法則」は作家のマルコム・グラッドウェル氏が発表したものですが、この法則は実際にマルコム氏が研究を行ったのではなく、アンダース・エリクソン教授のチームが行った研究を参考にしたものです。
そのアンダース教授がこちらの記事でインタビューを受けたときに
「マルコム氏は、私たちの研究のいくつかを誤解しています」
と言っています。
何かを習得するのに1万時間もかからないのです。
1万時間の法則の誤解
マルコム氏が参考にした研究はチェスやバイオリニストやプロスポーツといった競争の激しい分野での世界一流の人について行われた研究ですので、あまり私たちとは縁のない世界です。
また、1万時間というのも平均値であって人によってはずっと少ない時間で一流になった人もいれば、もっと時間もかかった人もいました。
チェスの「マスター」になるための練習時間は人によって、728時間から16,120時間と非常に幅がありました。
誰でも1万時間というわけではありません。
ではプロの域ではなく、一般よりも上のレベルくらいにまで到達するにはどのくらいの勉強や練習をすればいいのでしょうか。
1万時間ではなく20時間で習得する
作家のジョシュ・カウフマン氏はこちらの講演
の中で、20時間あれば達人レベル、プロレベル、とはもちろんいかないですが、「とても下手くそで、それを自分でも自覚している」状態から「まあまあ良い」レベルくらいにはなれると言っています。
学習というのは初期が最も上達が速く、だんだんと上達に時間がかかるようになってきます。
初めてやることは少し練習するだけで、すぐにある程度は上手になれるのです。
そのためにはダラダラと適当な練習をしていてはいけません。
ジョシュ・カウフマン氏は
- 技術を小さく分解する
- 自己修正できるくらいまで学習する
- 練習の障害を取り除く
- 少なくとも20時間練習する
という練習方法を推奨しています。
1.技術を小さく分解する
1つの技術は複数の技術が組み合わさってできています。
それを細かく分解して、より重要なことから練習していきます。
2.自己修正できるくらいまで学習する
習得したい技術の分野についての資料を手に入れます。
それを参考に練習しながら自己修正できるぐらいまで学習します。
3.練習の障害を取り除く
練習を何かにさえぎられないように、練習の邪魔になるものを取り除きます。
4.少なくとも20時間練習する
何でも最初はとても下手でうまくできません。
そしてうまくできないことに腹が立ちます。
この「フラストレーションの壁」は誰にでも何を習得するにもあります。
20時間練習すればある程度はできるようになるはずだと信じて、練習に専念します。
20時間での習得法を実践してみました
ジョシュ・カウフマンは20時間で「まあまあ良い」レベルにはなれる、と言っていましたが、本当にたったの20時間で習得できるのか実験してみました。
私は前々から人物のイラストを描いてみたいと思っていたのですが、私の中学時代の美術の評価は5段階評価で「2」。
生来手先が不器用で、小学生から今までずっと歪(ゆが)んだ顔しか描いたことがないため、自分には無理だろうとあきらめていました。
ですが、そんな私だから20時間でどのくらいできるかの参考になるかと思い、やってみることにしました。
最初の状態がこちらです。
「これは酷い…」
練習をするためには大きく描いたほうがいいということも知らずに小さく描いてしまったため見にくいですが、小学生のラクガキと大差ないことはわかるかと思います。
この絵がどれだけ上達するのでしょうか。
「これも酷い…」
これは折り返し地点の10時間目の絵です。
最初に比べると中学生のラクガキくらいになったのではないでしょうか。
「うわ、なんだこれ」と自分でも思います。
男性はいびつだし、女性は顔が長過ぎます。あ、でも女性の目だけは気に入っています。
もし「20時間でまあまあ良いレベルになれる」と聞いていなければとっくの昔に投げ出しています。
ジョシュ・カウフマンの言う「とても下手くそで、それを自分でも自覚している」状態ですね。
男性と女性の絵を描いたのですが、なぜかずっと練習し続けた男性よりも1時間しか練習していない女性のほうがまだマシです。
男性と女性では女性のほうが線が少なく、目にまつげを描けば女性になるので簡単なのです。
あと10時間でどこまで描けるようになるのでしょうか。
「え、20時間も練習して、これ…?」
…どうでしょうか?
「まあまあ良い」レベルと言えなくはないかもしれないような気がしないでもない程度にはなったでしょうか。(「まあまあ良い」レベルになったと胸を張って言えません)
輪郭(りんかく)を描くのが苦手なので分度器と定規を使って描くようにしたのと、男性の目と髪を簡素にしたのでまだ見られるようになっています。
女性は合計で3時間くらいしか練習していないのに男性よりうまく描けました。
右側の2人の女性の髪型はぶっつけ本番なのでおかしなことになっています。そして右下の女性は輪郭を失敗しました。
相変わらず男性の絵は難しいです。油断するとおかしな絵になるので1種類しか描けません。
ななめから見た顔や体の練習まではできませんでしたが、正面顔は最初に比べると進歩したかと思います。
ジョシュ・カウフマン氏の推奨する練習方法を参考に、私がやったのはこちらの方法です。
1.技術を小さく分解する
→輪郭(りんかく)、目、口、髪などの顔のパーツや男女の描き分け。
2.自己修正できるくらいまで学習する
→初めての人向けのイラスト指南サイトである漫画家の吉村拓也さんの画力ゼロからはじめるイラスト漫画生活で顔の描き方を学ぶ。
3.練習の障害を取り除く
→年末年始の誰にも邪魔されない時間で練習する。
4.少なくとも20時間練習する
→1で挙げた顔のパーツを部分的に練習し、その後顔全体を描く練習をする。
そこでおかしなところをまた部分的に練習することを繰り返す。
これらを実践した結果、不器用な私でもこのくらいはできるようになりましたので、あなたならば何であっても20時間である程度まで行けると思います。
精進(しょうじん)
仏教では精進(しょうじん)という善が教えられています。
精進とは努力することです。
自分にできないことができる人を見ると
「あの人は才能があるから。自分には才能がないから」
と思いがちですが、お釈迦さまは
「努力せずに怠けていたら何も習得できませんよ。努力すればそれに応じた結果が得られますよ」
と言われています。
「あんなの自分には無理。できない」とあきらめるのではなく、とりあえず20時間練習してみてはどうでしょうか。
まとめ
1万時間の法則は競争の激しい世界で世界に通用するレベルになるために必要な時間であって、何か1つのことを習得するのにかかる時間ではありません。
また1万時間と言っても平均値で、人によって違います。
何かの技術を習得しようとしたときは、
- 技術を小さく分解する
- 自己修正できるくらいまで学習する
- 練習の障害を取り除く
- 少なくとも20時間練習する
これを心がけることで「まあまあ良い」レベルくらいにはなれます。
「まあまあ良いレベルまで行くのに20時間くらいでいいのはわかったけれど、その道のプロとして成功するにはやっぱり1万時間の法則が成り立つんじゃないの?」
いえ、それもまた違うのです。
才能も当然ありますが、効率的な練習方法をするかどうかで技術の習得にかかる時間は大幅に変わります。
効率的な練習方法についてはこちらの記事で紹介しています。
私が今回の題材に絵を選んだのも、この記事を参考にしたからです。
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こんぎつね
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