リーダーになった人が陥る10の罠とは?|貞観政要に学ぶリーダー論(後)

こんにちは、暮らしを良くする研究家のこんぎつねです。

あなたは中国の唐の時代に書かれた貞観政要(じょうがんせいよう)をご存知でしょうか。

貞観政要は唐の2代皇帝・太宗(たいそう)と家臣たちとの政治に関するやり取りをまとめたものです。

前編中編の記事で、治世開始から13年後にして悪い行いが現れ始めた太宗に対して、家臣の魏徴(ぎちょう)が諫言した「魏徴の諫言十箇条」を紹介しました。

今回の記事では十箇条を伝え終わった魏徴(ぎちょう)の言葉と、それを聞いた太宗の反応を紹介します。

最初から知りたい方はこちらからお読みください。

(参考:古典に学ぶ -『貞観政要』の知恵-

総括

「災難も幸福もどこかからやってくるわけではなく、自分自身が起こすものだ」という言葉があります。

陛下が天下を治め始めて13年の間に、道徳は国内に行き渡り、御威光は国外までとどろき、穀物は豊作になり、学問が興り、民たちはみな官吏となってもおかしくない者ばかりになり、食物は水や火のように豊富になりました。

しかし最近は天災が流行り、日照りになり、地方で被害が出ており、悪者が悪事を行い、城下でも凶悪犯罪が起こるようになりました。

今こそ、この事態に驚いて心配する時です。

賢者の言葉に従い、細かく気を配り、自分の間違いを反省し、過去の皇帝がどのように世の中を治めたかを学んで実行し、失敗の原因を改め、世の中を新しくし、人の考え方を変えれば、天子の位は限りなく続き、天下の人々は幸福になり、災いの心配はなくなるでしょう。

そう考えますと、政治や国家の安否は陛下お一人にかかっています。

平安の世の中の基礎は既に整っていますが、長い間の努力も最後の少しのミスからダメになってしまうものです

今は千年に一度の時期です。賢明な陛下ならば本当は実行できることなのに実行しないため、取るに足らない私ごときが嘆いているのです。

私はバカなため物事がよくわかりませんが、私が見て感じたことを十箇条にしてお伝え申し上げました。

陛下が間違いばかりの私の言葉を採用し、身分の低い者の意見も参考にしていただけますことを慎んでお願い申し上げます。

私ごときの考えにも少しは得るところがあって、陛下の政務にわずかでも役立てていただけましたら、無礼を申し上げた私が今日死刑になろうとも、国が生まれ変わる日と思えば満足でございます

太宗の対応

この魏徴(ぎちょう)の諌めを聞いた太宗が言いました。

家臣が主君に仕えるとき、主君の言うことに従うのは簡単だが、逆らうのは最も難しいことである。

そなた(魏徴)は私の耳目や手足となっていつも考えていることを教えてくれる。

私は今、自らの間違いを聞いたが必ず改めよう。そして終わりを全うしたいものだ。

そなたの言葉に反することをしたならば、何の顔(かんばせ)あってかそなたに会えようか。また天下を治められようか。

そなたの諌めはよく考えられていて、正しいと思う。

そなたの言葉を屏風にして朝夕仰ぎ見られるよう、史官に記録させた。

千年後の者が、主君と臣下の正しい道を知ってくれることを願う

そうして、太宗は魏徴(ぎちょう)に金千斤と馬二匹を贈りました。

陥りがちな罠-欲と慢-

この記事を読まれている方にはいろいろな立場の方があると思いますが、魏徴の十箇条を例えば現代の会社組織で考えますと、
一、高級品を好むようになった
高価な機器やインテリアを置くようになった

二、民に軽々しく労役を課すようになった
部下に軽々しく多くのあるいは重い仕事をさせるようになった

三、豪華な宮殿造営をするようになった
自分の使うパソコン、机、イス、専用プリンターなどを高価なものに代えた

四、君子を遠ざけ、小人を近づけるようになった
忠告をする部下を遠ざけ、イエスマンばかり近づけるようになった

五、工業ばかり重視するようになった
特定の部下や部署ばかり重視するようになった

六、口先だけで人を判断するようになった
何も考えず調子のいいことばかり言う部下を優秀だと思い、熟考して黙っている部下を無能だと思うようになった

七、政務そっちのけで遊びに出かけるようになった
仕事以外のことに熱中するようになった

八、家臣をないがしろにするようになった
部下に対して横柄な態度を取るようになった

九、傲慢になり欲望が大きくなった
部下の忠告を聞かなくなり、自分のしたい仕事だけするようになった

十、民の気持ちを考えないようになった
部下の気持ちを考えないようになった
のように言い換えられるのではないでしょうか。

十箇条を大きく分けますと、「欲が大きくなった」「傲慢になった」に分けられるようです。

欲が大きくなったから高級品を好み、珍しいものを取り寄せて、高価な品物を作らせるのですし、傲慢になったから民を自分のために使い、諌めを聞かず、家臣に辛辣に当たるようになるからです。

仏教では私たちを煩わせ、悩ませる煩悩が教えられていますが、その中でも特に大きな六大煩悩が

  • 貪欲-欲
  • 瞋恚-怒り
  • 愚痴-恨み憎しみ
  • 疑-人や物への疑い
  • 慢-うぬぼれ
  • 悪見-間違ったものの見方

です。

立場が上がれば上がるほど、それが長く続けば続くほど、より欲が深く、慢が大きくなるのでしょう。

また仏教では「人間は煩悩具足である」と教えられます。

煩悩でできているのが人間ということです。

自分が起こす「欲」「慢」によって自分が煩わされて悩まされていることが分かれば、「ああ、これが欲の心か」「最近うぬぼれが大きくなってきたな」と自覚できて悪いところが見えてきます。

そこを改善すれば、今の立場のまま(あるいはさらに上に昇って)、終わりを全うすることができるのではないでしょうか。

まとめ

魏徴の十箇条をまとめますと、以下のようになります。

  • 一、高級品を好むようになった
  • 二、民に軽々しく労役を課すようになった
  • 三、豪華な宮殿造営をするようになった
  • 四、君子を遠ざけ、小人を近づけるようになった
  • 五、工業ばかり重視するようになった
  • 六、口先だけで人を判断するようになった
  • 七、政務そっちのけで遊びに出かけるようになった
  • 八、家臣をないがしろにするようになった
  • 九、傲慢になり欲望が大きくなった
  • 十、民の気持ちを考えないようになった

この十箇条を大きく2つに分けると「欲」「慢」に分けられます。

仏教では「欲」や「慢」などの煩悩でできているのが人間と教えられますが、その通りの自分だと自覚して悪い行動を変えることで、今の立場のままで終わりを全うできるようになります。

太宗が「千年後の者にも知ってもらいたい」と残した言葉を受け取り、自分の心と照らし合わせて正しい道を進んでいきたいものです。

仏教で教えられる「慢」については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。

AIの進化により幸せのカギである「人間とは何か」が問われる

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こんぎつね

チューリップ企画デジタルコンテンツ事業部にてサポートとインターネット業務にも携わっているこんぎつねです。(こんぎつねの記事一覧へ)チューリップ企画に来る前は愛知県で主に60代以上向けのイベントを運営していました。人について学ぶのが好きで、大学では生物学を専攻しました。よく読む本のジャンルは心理学、脳科学など人の心や体の行動に関するものが多いです。ブログもそれらの本を参考に、この悩みは 仏教ではこう解決するという内容を専門語を使わずになるべくわかりやすい言葉で発信することに心がけています。もっともっと多くの方の悩み疑問にお答えしたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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