部下の仲が悪いと悩むあなたへ|仲が悪い部下への三国志・曹操の奇策(後)
こんにちは、暮らしを良くする研究家のこんぎつねです。
前回の記事部下の仲が悪いと悩むあなたへ|仲が悪い部下への三国志・曹操の奇策(前)は仲が悪い部下同士を一緒に戦わせた曹操の策の話をしました。
「うちの部下は李典(りてん)みたいにデキた人間じゃないから」
「張遼(ちょうりょう)が強すぎただけ」
「あいつらと歴史に名を残す名将とを比べてもねえ」
そう思われるかもしれません。
今回はどうしてこの奇策がうまくいったのかを考えてみたいと思います。
シェリフの実験
仲の悪い部下を集めて重要な仕事をさせた曹操の策を裏付けるためにシェリフの実験を紹介します。
現代の、特にアメリカでは人種隔離政策が撤廃されてから、多くの人種が1つの場所に集まって協同で何かをすることが多くなっています。
そこで生まれるのが差別です。
教育専門家たちは人種隔離撤廃以降に差別や偏見が高まったのは、自分と違う人種と競争する機会が増えたからだと考え、競争でなく協力を中心とした活動をさせた場合に関係がどうなるかを実験で確かめました。
社会学者ムザファー・シェリフらは、少年たちのサマーキャンプで対立が生まれる過程を調査しました。
(参考:The Robbers Cave Experiment: Intergroup Conflict and Cooperation )
もちろん少年たちにはこれが調査だとは言っていません。
ただのサマーキャンプだと思わせています。
サマーキャンプが始まると、シェリフらはまず少年たちの間に敵対心を持たせました。
これは簡単で、少年たちを2つの宿泊棟に分けるだけで両方の間には「俺たち 対 あいつら」という感情が生まれました。
さらに自分たちのグループに名前を付けさせるとライバル意識が一層高まりました。
少年たちはすぐに相手のグループをけなし始め、2つのグループの合同ミーティングに競争活動を取り入れると、対立はさらに激しくなりました。
グループ対抗の宝探し、綱引き、スポーツ大会では
「おまえズルいんだよ!」
「この卑怯者が!」
「泥棒野郎!」
などの罵声が飛び交い、小突き合いをするようになり、やがて相手グループの宿泊棟を襲撃したり、乱闘さわぎが起こるようになりました。
集団をグループに分ける→しばらくグループごとに活動させる→共同活動の中に競争を入れる
これだけで2つのグループは対立しあいます。
問題はここからで、どうしたらこの2つのチームを仲良くさせることができるでしょうか。
まずシェリフらは2つのグループが一緒に楽しい時間を過ごせるように、映画観賞やピクニック、パーティを企画しましたが、ケンカになるばかりでとても仲良くはなれませんでした。
次にグループ同士が競争すると全員がひどい目に遭い、協力すると全員が恩恵を受けられる状況を作ってみました。
たとえば街へ食料を買いに行くための唯一の手段であるトラックのエンジンがかからなくなったことが”発見”されます。
「え、どうしよう。食べ物がなくなっちゃう…」
「よし、エンジンがかかるまでみんなで押すんだ!」
と、エンジンがかかるまでみんなで協力してトラックを押したり引いたりしました。
また、キャンプの水道をわざと止めました。
少年たちは水道が止まった原因をみんなで調べて、原因を突き止めると修理しました。
もう1つ、おもしろい映画が貸し出されているけどお金が足らないから借りられないと少年たちに告げました。
すると少年たちは
「それならみんなで小遣い出し合おうぜ」
「じゃあ俺が集めるよ」
とお金を出し合って映画を借り、みんなで観て楽しみました。
これらの協同作業の結果、2つのグループでは罵声やケンカがなくなり、違うグループの少年たちが同じテーブルで食事をする光景も見られるようになりました。
さらに親友の名前をあげるよう言われたとき、以前は同じグループの少年の名前しかあがりませんでしたが、別のグループの少年の名前をあげるようになりました。
仲が悪い部下同士を仲良くするカギは共通の目標
この協同作業で大事なことは、お互いが敵ではなく味方だと思わなければならない状況を作り出すために共通の目標を立てたことです。
お互いが協力することで成功したとき、今まで敵だった相手が仲間になったのです。
この実験により、お互いの仲を悪くさせるためには各人を競争させればよく、仲良くさせるためには共通の目標に向かって協力しなければならない状況を作り出せばよいことがわかりました。
ここで張遼(ちょうりょう)・李典(りてん)・楽進(がくしん)の話に戻りましょう。
3人は合肥(がっぴ)城に孫権(そんけん)が攻めてくる前は互いが競争相手でした。
誰が曹操(そうそう)軍の中で一番の将軍かを競い合っていたのです。
そのため他の将軍が功績をあげると
「クソッ、あいつうまいことやりやがって」
と敵対心が生まれます。
しかしそこに敵である孫権軍がやってきました。
しかもこちらは7千人しかいないのに10万人の大軍です。
ここで3人に「合肥城を守る」という共通の目標が生まれました。
李典は
「個人的な恨みで己のやるべきことを忘れはしない」
と言っていましたが、「己のやるべきこと」と訳した言葉は原典では「公義」と書かれています。
公(おおやけ)の義(人のために行うこと)ということで、私たちでいえば「仕事」のことです。
「己のやるべきこと」=「合肥城を守ること」は李典だけでなく、後の2人にとっても共通の目標でした。
だからこそ普段のいがみ合いを忘れて、曹操の指示に従ったのです。
愚痴と愛憎一如
仏教では嫉妬や恨み憎しみの心を「愚痴」と言います。
「愚」はおろか、「痴」もやまいだれの中に「知」が入っているのでバカということで、「愚痴」は愚かな心。特に因果の道理が分からない心だと言われます。
因果の道理とは
- 良いことをすれば良い結果がやってくる
- 悪いことをすれば悪い結果がやってくる
- 自分のやった行為が自分の結果として引き起こる
という教えです。
ある人が評価されるのはそれだけその人が努力した結果なのですが、目に見えない努力を忘れて結果だけを見て、「自分はこんなにがんばっていても大した結果が出ないのに、よくも…」と恨んだり、嫉妬したりします。
「そんな恨み憎しみの心は、実は愛する心と表裏一体なんだよ」と教えられたのが「愛憎一如」という言葉です。
愛していればいるほど裏切られたときの憎しみは大きくなりますが、憎しみの大きい相手ほど、いざ仲間・味方となったときの信頼も大きくなります。
一緒に作戦なんてとてもできない仲だった張遼(ちょうりょう)と楽進(がくしん)が戦いの後に
「あれが孫権だと知っていたら捕まえられたのだがな」
と会話をしていますが、2人の仲に何らかの変化があったのでしょう。
残念ながら3人のその後の仲については歴史書に記述がないので分かりませんが、以前とは違った関係になったのでないかと思います。
まとめ
特に人間性に問題がないのに、部下同士の仲が悪い場合は大きな仕事を任せてみるのも手です。
三国時代の曹操(そうそう)は仲の悪い3人の部下、張遼(ちょうりょう)、楽進(がくしん)、李典(りてん)に重要な拠点を任せました。
3人の仲が悪いのは相変わらずでしたが、「合肥城を守る」の思いが共通していた3人は、いざ戦いとなると力を合わせて城を守りました。
社会学者のシェリフの実験では、お互いに競争をさせると対立し、お互いが協力すると互いに利益がある共通の目標を作り出すと協力して仲良くなることを発見しました。
仏教では愛情と憎しみは表裏一体であることを「愛憎一如」と教えられます。
愛していればいるほど裏切られたときの憎しみは大きくなり、憎んでいればいるほど、仲間になったときの信頼も大きくなります。
普通のやり方ではうまくいかない仲の悪い部下がいましたら、重要な仕事を2人に任せてみると効果があるかもしれません。
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こんぎつね
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