ワンマン上司になっていませんか?|素直な劉邦とワンマン項羽の教訓(後)

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こんにちは、暮らしを良くする研究家のこんぎつねです。

前回の記事ワンマン上司になっていませんか?|素直な劉邦とワンマン項羽の教訓(前)では鴻門の会前後での項羽のワンマンっぷりと劉邦の素直っぷりについてお話しました。

さてこの2人はこの後どうなるのでしょうか。

名将韓信を得る

劉邦が巴蜀に向かったあたりで劉邦の部下に加わったのが名将・韓信(かんしん)です。

韓信は初め項羽軍にいましたが才能を認められなかったため、劉邦の名声を聞いて士官してきました。

初めはただの一兵卒であった韓信でしたが、その才能を見抜いたのが蕭何(しょうか)です。

蕭何は劉邦旗上げ時からの重臣で、張良と同様に幾度となく劉邦に助言をしてきた人物です。

初めは韓信に興味を持たなかった劉邦ですが、蕭何(しょうか)が

「韓信は国士無双(こくしむそう:他に比類のない人)です。劉邦様が天下を取ろうと思うのならば必要不可欠な人物です」

と言うと、蕭何の言葉を素直に信じ、一兵卒であった韓信をいきなり軍の総司令官である大将軍の地位に就かせます。

韓信はその期待に大いに応え、劉邦の軍とは別働隊として動き、項羽に味方していた魏、代、趙、斉を攻め落とします。

趙を攻めた井陘口(せいけいこう)の戦いのときの作戦が有名な背水の陣です。

短期間で諸国を平定した韓信は劉邦に「斉の仮王になりたい」と申し出ました。

しかし最近項羽に押され気味だった劉邦は気に入りません。

韓信の使者に対して「俺がこんなにピンチなのに何が『斉王になりたいです』だ!ふざけるな!」と叫ぼうとしたとき、張良が思いきり足を踏んづけました。

劉邦「イッテェ!何をす…」
張良「劉邦様。今ここで韓信に背かれたら私たち終わりですよ」
劉邦「だ、だって韓信がこんなときに勝手なこと言うから…」
張良「ここは韓信の機嫌を取るために、いっそ『仮とは言わずに斉の真の王になれ』と言ってやるのがいいですよ」
劉邦「そうかぁ、わかったよ」

こうして韓信は晴れて斉王になりました。

韓信を脅威に感じた項羽は、劉邦を裏切るよう説得しますが

「昔あんたは俺をないがしろにしたが、劉邦様は俺を斉王にしてくれた。断る」

と断固拒否しました。

また韓信の部下にも

「項羽と劉邦が戦って疲弊したところで韓信様がまとめれば天下統一できますよ」

と勧められましたが

「劉邦様は一兵卒だった俺に自らの服を与えてくれ、車に同乗させてくれ、大将軍に任じてくれた。その劉邦様を裏切ることはできない」

とこれも断りました。

張良の言うことを素直に聞いていなければ、韓信は裏切って劉邦の立場は危うくなっていたかもしれません。

賢臣・范増を疑うワンマン項羽

一方で劉邦は項羽に追われて窮地に立たされていました。

ここで陳平(ちんぺい)という部下が項羽の疑り深い性格を利用して、項羽の部下で最も賢い范増(はんぞう)を項羽から引き離そうと提案しました。

陳平(ちんぺい)は元は項羽の部下でしたが、無実の罪で処刑されそうになったため逃げ出して劉邦の部下となった人です。

この提案に素直に従った劉邦は陳平に経費として4万金の大金を与えました。

まず陳平は「范増や他の重臣たちは、功績を上げても項羽が恩賞を出し渋ることに腹を立てて、劉邦の味方をして裏切ろうとしている」と噂を流しました。

また項羽の使者が来たときには

陳平「ああ!これはこれは范増様のご使者ですか!范増様にはいつもお世話になっております。長旅さぞお疲れでしょう。ささやかながら(といいつつ実際は豪華な)宴会を設けました」
使者「え、いやあの私は范増殿ではなく項羽様の…」
陳平「そんなそんなご遠慮なく。さあさあまずは一杯。カンパーイ!美味しい料理もたくさんご用意しました。いやあ范増様のおかげで項羽を倒すことができると劉邦様も大変お喜びです」
使者「ええっ!?いや、あのすみませんが私、范増殿の使者ではなく項羽様の使者なんですが…」
陳平「………は?何だそれ早く言えよ。チッ、項羽の使者なんかに金かけて宴会用意したのかよ。今さら止めることもできないからアンタは端っこの席にでも座ってろ」

と范増と仲が良いように振る舞いました。

使者からそのことを聞いた項羽は范増を疑うようになりました。

賢い范増から見れば明らかな離間の計であるにも関わらず、それに気付かず、真面目にずっと仕えてきた自分を疑い、聞く耳を持たないワンマン項羽に腹を立てて

「もう天下の様相はだいたい決まったので、あとは自分で何とかしてください。さようなら」

と故郷に帰ってしまいました。

韓信も陳平も、元々項羽の部下だったのに今や劉邦の部下となり、ついには范増さえ項羽を見捨てて去っていったのです。

最後の戦い

張良や韓信に唯一対抗できる范増を失った項羽は、劉邦に追い込まれます。

劉邦は「よしっ、ここで乾坤一擲(けんこんいってき)の最終決戦だ!」と韓信彭越(ほうえつ)という部下に共に項羽を攻撃するよう呼びかけますが、戦いが始まったのに2人とも攻撃に参加せず、劉邦は逆に項羽に蹴散らされてしまいました。

劉邦「クソっ!あいつらこの大事なときに何で来ないんだよ!」
張良「韓信と彭越(ほうえつ)が来ないのは劉邦様が恩賞の約束をしていないからですよ」
劉邦「は!?あいつらには十分な給料やってるぞ!韓信なんて斉王にしてやったじゃないか!」
張良「韓信には肩書きを与えただけで領地は与えていません。彭越なんて肩書きすら与えていないじゃないですか。2人とも項羽との戦いに決着が着いてしまったら自分の立場がどうなるのか不安なんです」
劉邦「だが恩賞が少ないからって俺たちを見捨てたらあいつらだって滅びるじゃないか!それにまだ天下統一できてないのに恩賞なんて出せるか!」
張良「彼らは劉邦様が滅びるだなんて考えていません。『功績の割りに恩賞が少ないなぁ』としか考えていません。今までの戦いで劉邦様は天下の半分をお取りになりましたけど、それは彼らのおかげですよね。多くの人は『劉邦は天下の半分を取ったのに恩賞を出し惜しんでいる』と思っていますよ。劉邦様が出し惜しんでいないのは私もわかっていますが、皆にもそう思われないと意味ありません。だから彼らは恥じることも悪びれることもなく来なかったのです」
劉邦「そうかぁ、わかったよ」

張良の言い分を素直に聞いた劉邦は、天下を統一した暁には韓信を斉王に、彭越(ほうえつ)は梁王にすることを約束しました。

喜んだ彼らは項羽を攻撃し、四面楚歌で知られる垓下(がいか)の戦いにて、ついに項羽を討ち取りました。

項羽は享年31歳。

死の直前に

「俺がここで滅びるのは天が俺を滅ぼそうとするからであって、俺が弱いからではない」

という言葉を遺しています。

項羽は最後の最後まで「俺は正しい、俺は悪くない」と言って死んでいったのでした。

素直な劉邦とワンマン項羽の大きな差

天下を統一して皇帝となった劉邦が家臣たちと酒宴を開いていたとき

「俺が天下を取り、項羽が敗れたのはなぜだと思う?」

と聞きました。

家臣たちは

「劉邦様は功績があった者には惜しみなく恩賞を与えましたが、項羽は恩賞を出し渋りました。それが理由かと思います」

と言いました。

それを聞いた劉邦は

「おまえたちは一を知って二を知らない。俺は張良のように策も立てられないし、蕭何(しょうか)のように民を安心させることもできないし、韓信のように軍を率いて勝つこともできない。しかし俺は張良、蕭何、韓信の三傑を使いこなすことができた。項羽は范増一人使いこなすことができなかった。それが俺が項羽に勝てた理由だ」

と答えました。

実際は「使いこなした」のではなくただ意見を素直に聞いただけにも思えますが、それだけの人材を集めることができたのが劉邦の最大の強みでしょう。

「俺の考えが正しいんだ」とうぬぼれてワンマンになり、范増の言葉を聞かずに滅んだ項羽と、偉くなっても「そうかぁ、わかったよ」と部下の意見を素直に聞き、漢王朝を開いた劉邦との間にはとても大きな差があったのです。

まとめ

お釈迦さまは、すべての人にはうぬぼれ心の「(まん)」という煩悩があると言われています。

項羽だけではなく人は皆、ワンマンになりやすいと言えましょう。

「慢」の心があるために人の意見を素直に聞けず、「自分が正しい、相手が間違い」と人を見下してしまいます。
そして最後には自分が苦しむのです。

もしも劉邦が「俺の考えが正しいんだ」と部下の言うことを聞かないワンマン上司だったら、もしも項羽が范増の言うことを素直に聞いていたら、歴史は変わっていたかもしれません。

項羽のようなワンマン上司ではなく、劉邦のような部下の意見を素直に聞ける人になりたいものです。

慢についてはこちらでも詳しく解説しています。
ベテランの陥る罠|ベテラン中堅でも若手新人の意見を聞くべき理由

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こんぎつね

チューリップ企画デジタルコンテンツ事業部にてサポートとインターネット業務にも携わっているこんぎつねです。(こんぎつねの記事一覧へ)チューリップ企画に来る前は愛知県で主に60代以上向けのイベントを運営していました。人について学ぶのが好きで、大学では生物学を専攻しました。よく読む本のジャンルは心理学、脳科学など人の心や体の行動に関するものが多いです。ブログもそれらの本を参考に、この悩みは 仏教ではこう解決するという内容を専門語を使わずになるべくわかりやすい言葉で発信することに心がけています。もっともっと多くの方の悩み疑問にお答えしたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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