ロボットが人間を育てる時代が来るかも!?人工子宮は善か悪か。仏教の視点から考えてみた
「人工子宮」というワードがTwitterのトレンド1位になっていました。
いつの日か、ロボットが人間を育てる時代が来るかもしれない。
人間が「栽培」される時代が来るかもしれません。
人間は知能と意志をもって、自ら運命を切り開いていけますが、人工子宮が普及した先はどんな未来になるのでしょうか。
仏教の観点からこの問題を考えてみます。
中国が人工子宮システムを開発
中国科学院傘下の蘇州医用生体工学研究所の研究チームは2021年12月、人工子宮の環境で胎児に成長する胚を監視し、世話をする人工知能システム「AIナニー(乳母)」を開発したことを発表した。
(中略)
この技術の応用を進めれば、人間の女性の胎内で育てることなく、体外で胎児を安全かつ効率的に成長させる可能性がある。
(引用:女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚から育てる人工子宮システムを中国が開発より|ニューズウィーク日本版)
現在の国際法では、2週間を過ぎたヒトの胚の実験研究は禁止されており、マウスの胚を使って「AIナニー」が胚を世話しているとのことです。
胚の健康状態や発育の可能性によって、胚をランク付けすることも可能だそうで、遺伝子の優劣によって生まれながらに人間が淘汰されてしまうかもしれません。
Twitterでは肯定的な意見と、否定的な意見どちらもありました。
<肯定的な意見>
●人工子宮による代理出産は、出生率低下、人口減少の課題を解決するので、もっと取り組むべき
●子どもを望むが、自分では妊娠・出産できない人にとっては、嬉しい科学技術かもしれない
●妊娠・出産に伴う女性の負担やリスクを低下し、キャリアと子育ての両立が可能になるかもしれない
<否定的な意見>
●「生産」された人間が、臓器移植用、兵士、人体実験などに悪用されるかもしれない
●母体からの自然出産か、人工出産かによって差別が起きるかもしれない
●命に優劣をつけ選別する優勢思想が助長するかもしれない
・・・・・・・・・
肯定的な意見も否定的な意見も、どちらも同意できます。
科学技術「そのものが」善い・悪いではなく、「どのように使うか」によって、善にも悪にもなり得るからです。
科学は善か悪か
科学の進歩により、私たちの暮らしは便利になりました。
移動手段を例にどれだけ便利になったか考えてみましょう。
●徒歩
江戸時代の庶民の移動方法といえば、徒歩です。
歩く速度を時速4kmとして、10時間歩いても1日に移動できるのは40km。東京駅から八王子くらいです。
●飛行機
飛行機なら同じ10時間で、日本からアメリカ・ロサンゼルスまで行くことができます。
●ロケット
さらに2021年には、ZOZO創業者の前澤友作さんが、日本の民間人として初めて国際宇宙ステーションに滞在しました。
地球から約6時間で到着したそうです。
科学の進歩のおかげで、より短時間で遠く移動できるようになりました。
では、科学は私たちを幸せにするでしょうか?
第一次世界大戦、第二次世界大戦を通して科学技術は人類の大量殺戮に利用されました。
ついには広島と長崎に原子爆弾が投下され、推定で21万4千人が亡くなったとされます。(1945年中)
尊い命が一瞬にして犠牲になった核兵器ですが、なんと2021年1月時点で、世界に1万以上の核兵器が保有されているそうです。
もし、核兵器を大量に使った世界大戦が起きれば、地球は瞬く間に燃え尽きるでしょう。
第三次世界大戦がどのように行われるかは私にはわからない。
だが、第四次世界大戦が起こるとすれば、その時に人類が用いる武器は石とこん棒だろう
(アインシュタイン)
人類も文明も焼き尽くしてしまい、原始的な生活に戻ってしまうとアインシュタインは予言しています。
科学を扱う人間の心が問題
科学自体は善でもなければ悪でもありません。
科学はあくまでも幸せになるための手段であり、それをどう扱うかを決めるのは人間です。
だから、科学を扱う人間の心が問題です。
人工子宮システム「AIナニー」も、それ自体では善とも悪とも言いようがありません。
たとえば、未熟児で生まれてきた赤ちゃんが、現代の保育器では十分に発育させられない。そんな時、「AIナニー」によって適切に栄養を与えたり、体調管理ができて、一命を取り留めることができるならば、尊い命を救ったことになります。
反対に、臓器売買や人体実験など、非人道的な目的のために使われれば、大問題です。
仏教が説く人間の姿
それでは、人間とは、どのようなものでしょうか。
仏教では、人間のことを煩悩具足(ぼんのうぐそく)と言います。
煩悩とは、字のとおり、私たちを常に煩(わずら)わせ、悩ませるものです。
具足(ぐそく)とは、それで出来上がっている、という意味です。
仏教では、一人一人に108の煩悩があると説かれています。
とくに私たちを煩わせ悩ませる3つの代表的な煩悩が「欲」「怒り」「ねたみ、そねみの愚痴」です。
「欲」とは、無ければ無いで欲しい、有ればあったでもっと欲しいもっと欲しいと限りなく広がっていく煩悩です。
欲の中でも深くて強いのは「五欲」です。
【五欲】
食欲―食べたい、飲みたい
財欲―金や物を求める心
色欲―好きな人を求める心、愛欲
名誉欲―褒められたい、評価されたい、認められたい
睡眠欲―眠たい、楽がしたい
食欲や睡眠欲がなくなれば生きていけませんし、財欲や名誉欲がなくなれば腑抜けでボーっとしてしまいます。
しかし、この五欲に突き動かされ、日々、欲に振り回され苦しみ悩んでいるのが私たちではないでしょうか。
欲の本性
欲の本性は「我利我利(がりがり)」です。
自分(我)の利益しか考えず、自分さえ良ければ周りはどうなっても良いという非情な心です。
自分の欲を他人に邪魔されると「あいつさえいなければ」と、平気で人を抹殺する冷酷な心が出てきます。
今回の人工子宮に関しても、実現すれば、利権者に莫大な財産が手に入るでしょう。
胚のランク付けができることから、人工子宮で生まれた幼児は、生まれながらに高い知能や、優れた身体能力、美しい容姿を持つ可能性が高まります。
そうなれば、表現は適切でないかもしれませんが、安い牛肉からA5ランクの高級肉まであるように、人間自体が商品のような扱いを受けるかもしれません。
一個人の尊厳や自由意志は否定されてしまいます。
欲の本性は、自分が儲かれば他人の悲しみなど構っておれないという冷酷な心です。
非情な本性を度外視したまま、人間の命という尊厳な領域に踏み込むのは、恐ろしいとさえ思います。
仏教では、人命が地球よりも重い理由をハッキリと教え、すべての人が平等に幸せになる道が説かれています。
その仏教を伝える手段に活用されてこそ、科学は真の存在意義をもつでしょう。
九条えみ
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